はじめに
IPCCとは、国連の「気候変動に関する政府間パネル」Intergovernmental Panel on Climate Changeのことです。IPCCは、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立した国際機関です。2007年にノーベル平和賞を受賞したことで有名になったと言われています。ここでは地球温暖化に関する世界の科学者の研究成果を評価し、政治に反映させることが目的となっています。3つの作業部会があり、「気候変動の自然科学的根拠」、「影響・適応・脆弱性」、「気候変動の緩和」のそれぞれの部会から報告書が提出され、最終的には「統合報告書」として公表されています。 IPCCの作業部会が、2013年9月23日からスウェーデンのストックホルムで開始され、9月27日には、6年ぶりとなる「第5次評価報告書」の第1回分が公表されました。 IPCC第5次評価報告書の表紙 出典:IPCCホームページ 1.IPCCの役割の経緯 IPCCは、195か国が加盟し各政府が指名する科学者と行政官とで構成される「政府間パネル」と呼ばれる国連の組織です。1988年発足以来、地球温暖化に関わる世界中の最新の科学研究成果を収集し評価し、その結果を世界各国の政治に反映させてきました。よく研究機関と間違われることがありますが、研究機関ではなく研究成果を取りまとめて公表し、地球温暖化の抑制に寄与することを目的とする機関となっています。 IPCCの設立から最近までの経緯は以下のようです。 1988:IPCC設立 1990:IPCC第1次評価報告書の公表 1992:ブラジル・リオデジャネイロでの地球サミットにおいて国連気候変動枠組条約の採択 1995:IPCC第2次評価報告書の公表 1997:COP3(第3回国連気候変動枠組み条約締約国会議)京都議定書の採択 2001:IPCC第3次評価報告書の公表 2005:京都議定書発効 2007:IPCC第4次評価報告書の公表、ノーベル平和賞受賞 2009:COP15(コペンハーゲン)・米国や新興国を含む国際的な温暖化対策の新枠組み合意出来ず 2012:京都議定書の第1約束期間が終了 2013-14:IPCC第5次評価報告書の公表(予定) 2015:2020年以降の新しい国際枠組の合意なるか? IPCC発足以来の最大の課題は、「地球温暖化の要因は人間活動なのか、単なる自然変動なのか?」でした。1990年の第1次報告書では、「人為的な温暖化を生じさせるだろう」としています。しかし、2007年の第4次報告書では「人為的な温暖化の可能性が非常に高い(確率90%以上)」となりました。 第5次報告書ではどんな内容になったのか、大変関心が持たれるところです。 2.IPCCの仕組みと第5次報告書の日程 IPCCは、第1作業部会から第3作業部会まで3つの作業部会があり、それぞれ①気候変動の自然科学的根拠、②影響・適応・脆弱性、③気候変動の緩和の分野を担当しています。それぞれの作業部会から提出された「報告書」をIPCC総会において取りまとめ、「統合報告書」として公表されます。なお第5次報告書に関する作業日程は、次のようになっています。 2013年9月・スウェーデン:第1作業部会「気候変動の自然科学的根拠」報告書提出(9月27日に公表済) 2014年3月・横浜:第2作業部会「影響・適応・脆弱性」報告書提出 2014年4月・ドイツ:第3作業部会「気候変動の緩和」報告書提出 2014年10月・デンマーク:IPCC総会「統合報告書」作成 3.第5次評価報告書の概要 スウェーデンのストックホルムで開催されたIPCCは、2013年9月27日、第1作業部会がまとめた「第5次報告書」を公表しました。将来の地球温暖化の進行などを分析したこの報告書では、今世紀末には温暖化の影響により「海面は最大82cm上昇し」、「気温は最大4.8℃上昇する」と予測しています。また、この分析結果に基づいて、「気候変動を抑えるためには、温室効果ガスの排出を継続的かつ徹底的に削減することが必要である」とし、これまで以上の努力を国際社会に求めています。 最近(1986-2005)と21世紀末(2081-2100)を比較した気温(a)と降水量(b)の変化(1986-2005年を0とした増減) RCP 2.6シナリオ(温暖化を最も抑えた場合):2100年までにピークを迎えその後減少する「低位安定化シナリオ」 RCP 8.5シナリオ(温暖化が最も進んだ場合):2100年以降も温暖化効果の上昇が続く「高位参照シナリオ」 出典:IPCC第5次報告書 世界の平均気温の変化(1986~2005年の平均値を0とした場合) 黒線[historical]:これまでに観測された気温、紫線[RCP2.6]:温暖化を最も抑えた場合、赤線[RCP8.5]:温暖化が最も進んだ場合 出典: IPCC第5次報告書 第5次報告書では、「気候変動への人間の影響は明らかである」として、人間活動と温暖化現象を明確に関連づけています。特に1900年代後半からの気温上昇は、人類の生産活動など「人為的な温暖化の可能性が極めて高い」(確率95%以上)とし、前回の第4次報告書の確率90%以上から引き上げました。 また、世界各地で頻発している熱波、豪雨、竜巻などの「極端な気象」は、この人為的な要因による温暖化が原因であると警告しています。(詳しくはこちらを参照してください.オリジナルの英文報告書はこちらです) おわりに 第18回 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)、京都議定書第8回締約国会合(CMP8)が、2012年11月、カタールのドーハで行われました。COP18では、京都議定書に代わる2021年からの新たな国際規約を、2015年までに構築することを参加各国が再確認しました。また「新たな法的枠組み」の原案の骨組みについて、2014年末のCOP20以前に準備することによって、検討素案(たたき台)の2015年5月までの作成を目指すことが決定されました。(詳しくはこのブログの「COP18の結果はどうなったか?」2012年12月26日をご覧ください) 次回のCOP19は、2013年末にポーランドが議長国を務め、ワルシャワで開催されることになっていますが、今回のIPCCの第5次報告書は、温室効果ガスの排出を抑制する京都議定書後の新たな国際的枠組みの2020年の発効に向けて、2015年の合意を目指している交渉に大きく影響することとなります。そしてこの「第5次報告書」が、「新たな国際的枠組み」の構築に重要な科学的根拠を与えることとなることでしょう。 以上
by wister-tk
| 2013-09-28 22:02
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