生物多様性において外来種とは何か?

はじめに
生物多様性とは何か?また、生物多様性の重要性については、既にこのブログの2010年2月15日号で述べています。「生物多様性」と言うのは、ひとつには、あらゆる生物種の多さと、それらによって成り立っている生態系の豊かさやバランスが保たれている状態を言いますが、ふたつ目としては、さらに生物が過去から未来へと持続するための遺伝子の多様性をも含む広い考え方です。
当然ながら私たちは、生物多様性が織りなす豊かな生態系にあって、快適な空間の中で生きています。しかし、最近になって特に問題視されているのが、いわゆる「外来種」と呼ばれる生きものたちです。一体、「外来種」とはどのような生きものを言うのでしょうか?今回は「外来種」について学習しようと思います。

1.外来種とは?
「外来種」の定義としては、「他の地域から人為的に持ち込まれた生物のこと」と言うことになっています。生態系や経済に重大な影響を与える場合もあり、また、ある種の環境問題として扱われることもあります。一方、外来種に対して、その地域に以前から生活している生きものを「在来種」と呼んでいます。また、「国外外来種」・「国内外来種」と区別することもあり、これらはそれぞれ国外から移動してきたか、または国内の他の地域から来たかによって区別しています。

それでは、生きものを「外来種」として扱うのは、過去に導入されたどの時点で言うのでしょうか?と言うことについては、統一的な解釈はないと言われています。わが国では明治元年を区別の堺としていて、明治元年以前の時代に導入された生きものは、正確な記録の確認が困難なためなどの理由で対象外とし、明治元年以降に導入された生きものを外来生物の対象とすると決められているようです。

2.家ネズミも外来種か?
わが国においては、畑作文化とともにモンシロチョウ、アカザ、ナズナなどが移入され、稲作文化の導入と関係が深いと言われているスズメや人家を棲家とすることの多いドブネズミ・ハツカネズミなどの家ネズミ類、ジャコウネズミなどが生息しています。これらの生きものは、先史時代に人の移動・定着・農耕などによる新しい環境の出現によって、新しい地域に移入したと推定される「記録のない生きものたち」で、先史以前にすでに生息していたと言う意味で、特に「史前帰化生物」と言われています。

これらの生物は、数千年以上の長い年月を経て、在来の生態系に組み込まれているとものと見なされ、生態系への影響を理由に駆除されることもなく、また外来種と認識されることもほとんどありません。
また、渡り鳥や迷い鳥、回遊する水生生物など、生物「自らの能力によって移動してきた生きもの」は、外来種と見做さないとのことです。結論としてわが国における「外来種」は、明治以降、人間の生活や経済活動などのために「人為的に人間によって導入された生きもの」と言うことになります。

3.ペットや家畜も外来種か?
広い意味での外来種には、ペットや家畜それに園芸用の植物などのほとんどの生きものが含まれます。ですから世界中においては、多くの種類の生きものが外来種として継続的に導入されていると言うことができます。しかし、幸いなことに外来種の多くは、導入されても容易には野生化することが出来ないと言われ、また野生化できたとしても数世代の短い世代交代の間で消滅してしまうと言われています。
一方、一部の外来種は、新たな侵入地域にはその外来種の特異的な天敵がいないなどのために、外来種の成長や繁殖能力が向上して、問題を引き起こすほど拡散し、定着することがあります。このように原産地において生息していたときには、特に問題を起こさず他への影響も少なかった生きものが、新しい定着地で攻撃的な侵略性を発揮することも少なくないと言われています。

4.外来種の例 [出典:Wikipedia・外来種](一部省略・加筆)
(1)人間が何らかの目的をもって意図的に持ち込んだ外来種の例
①農業用・漁業用として導入:
●ウシガエル(北アメリカ原産、食用として導入、食材としての価値を失い野生化して、在来種を殲滅的に捕食)、●アメリカザリガニ、●セイヨウオオマルハナバチ(ヨーロッパ原産、花粉媒介昆虫として導入、盗蜜するが花粉はつけないため本来の目的を果たさず、在来種のマルハナバチを駆逐する)
●ニジマス、●カワマス、●ブラウントラウトなど(サケ・マス類)

②天敵として導入:
●ジャワマングース(アラビアから東南アジア原産、沖縄でハブ退治に導入、ハブを食べずにニワトリや野鳥さらにヤンバルクイナを捕食するようにうなる)
●カダヤシ(アメリカ中南部原産、蚊の幼虫ボーフラ退治で導入、在来種のメダカを駆逐)

        ウシガエル[2]              アライグマ[香川県庁HP]
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③産業振興・娯楽用:
●ブラックバス(オオクチバスなど)
●ホシムクドリ(ヨーロッパ原産、都市害鳥の代表格、ニューヨークのセントラルパーク)、
●コウライキジ(朝鮮半島、中国原産、狩猟用、食用、観賞用として導入、日本の国鳥である在来種のキジとの交雑が進み純粋なキジは存在しないと言われる)、
●ヤマドリ●コリンウズラ(日本各地に大量に放鳥)

        オオクチバス[2]                コウライキジ[2]
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④緑化・ガーデニング用:
●シナダレスズメガヤ(南アフリカ原産、道路法面保護として導入、絶滅危惧種のカワラノギクやカワラニガナといった在来種を駆逐)●オニウシノケグサ ●ハリエンジュなど
●ハルジオン、●オオハンゴンソウ、●オオキンケイギク、●ルピナス、●ランタナ、●フランスギクなど(適応力の高い植物が、ときには国立公園などの原生的な自然環境にまで広がっている)

⑥ペット用・家畜用:
●アライグマ(北アメリカ原産)●アカミミガメ(幼体がミドリガメ・アメリカ)、
●ヤギ、●カイウサギ、●イエネコ、●イエイヌ


(2)人間が意図することなくまったくの偶然で侵入してしまった外来種の例
●シロツメクサ(クローバー:ヨーロッパ原産、オランダからの献上の器物の間に詰め物として使用されていたのが最初の持込、その後、牧草,緑肥,緑化用として輸入、在来種,畑作物との競合、土壌窒素の蓄積、在来の草本植物、農作物への影響)、

●セアカゴケグモ(オーストラリア原産)●ハイイロゴケグモ(オーストラリア、中央・南アメリカ原産)、

●ムラサキイガイ●ミドリイガイ●タテジマフジツボなど、世界中の港を行き来する貿易船の船体に付着したり、船の重量調節用のバラスト水に混入したりして日本に導入された水生生物は、少なくとも24種にのぼる。

●カワホトトギスガイ(カスピ海、黒海原産)が、アメリカの五大湖でもバラスト水にから侵入し、水中に存在するあらゆるものを覆い尽くすほど爆発的に大発生している。

●サキグロタマツメタ(東アジア原産)という捕食性巻貝が、放流用のアサリに混入して拡散したように、意図的に導入された生物に付着することで気づかぬうちに導入されてしまった外来種もある。

●カワヒバリガイ(中国、朝鮮半島原産)も輸入シジミに付随して導入されたのではないかと疑われている。

5.外来種の影響と被害
侵略性の強い外来種が引き起こす問題として、生態系に与える影響、環境保全の問題、農林漁業等への被害、感染症やヒトの生命への危険、遺伝子の撹乱などが挙げられますが、数種の項目にまたがるものも少なくないと言う。

(1)生態系への被害
●島などのように生態域の狭い所では、粗食と悪環境に強く草を根こそぎ引き抜いて食べるノヤギによって、植生が壊滅的な打撃を受ける場合があり、その例としてハワイ諸島、ガラパゴス諸島、伊豆諸島、小笠原諸島、尖閣諸島などが挙げられています。

●南西アジア原産のジャワマングースは、沖縄島や奄美大島に定着していますが、この島に生息する希少動物であるヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどを捕食して、これらの島の生態系に深刻な被害を与えています。

●グリーンアノール(北アメリカ原産)は、1960年代に小笠原諸島に導入された外来種のトカゲですが、現在は個体数が数百万にまで拡大し、オガサワラシジミやオガサワラゼミなど小笠原固有の昆虫を捕食し、昆虫群集の衰退をもたらしていると言うことです。

●外来種の水生植物のなかには、大増殖して水面を覆いつくして在来植物の生育を妨げ、大量に枯死した場合は水質を悪化させます。特に熱帯アメリカ原産のホテイアオイは、他の外来水生植物と同じく生態系への悪影響の点で世界的に問題となっていて「最悪の水生害草」と呼ばれています。

          ケナフ[2]               ホテイアオイ[2]
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(2)環境保全における問題点
●ホタルの例:自然を回復させるための自然保護活動やビオトープ活動などの環境保全活動において、外来種問題に無理解なために、地域の自然をかえって破壊してしまう場合もあると言われています。その一例として、「ホタルの復活」があります。開発によって消滅あるいは消滅しそうなホタルを呼び戻そうという活動です。
しかし、こうした「ホタルを呼び戻そう活動」の中には、地域のホタルの遺伝的多様性を考慮しないで、無差別にホタルの放虫が行われる事態が多発していると言われています。ある県の場合で、町役場が観光用に移入した他県産ゲンジボタルを多量に養殖し放虫したため、外来種が在来種を駆逐して、その個体数を著しく減少させてしまったと言うことです。

●ケナフの例:1990年代に注目を集めたケナフ(アフリカ西部原産)は、二酸化炭素を吸収する能力が高く、地球温暖化防止につながる環境にやさしい植物として、多くの植栽が推奨されたという。しかし、ケナフを大量に植栽するために、多くの在来の自然植生が伐採されて生態系が破壊されたという本末転倒の事例も生じています。

(3)農林水産業等への被害
外来種が、農林水産業の進展に大きく寄与することがありますが、他方で農林業や漁業に膨大な被害を与える外来種もあると言われています。
南アメリカ原産のヌートリアは、わが国では1940年代の初めころまでは毛皮を取るため飼養が盛んでした。しかし、需要がなくなった1945年以降は飼育されなくなり生態系へ放出さたため、中部地方から西の各地の河川や沼地に定着しました。この地域ではヌートリアによる農作物(イネ、ニンジン、サツマイモなど)の大きな被害が報告されています。わが国における他の例としては、アライグマ、キョン、イノブタなどの陸生哺乳類が農作物被害を引き起こしていることが知られています。

また、わが国では第二次世界大戦中に、食糧増産のため魚の家畜に相当する家魚(かぎょ)を中国から導入しました。いわゆる四大家魚(よんだいかぎょ)として、ソウギョ 、ハクレン、コクレン、アオウオが、利根川水系に導入されましたが、食糧問題の解決にはならなかったと言われます。
しかし、その後ソウギョは、水域の除草目的に転用することになったのですが、過剰な放流によって在来種の水生植物群落が形成する生態系を壊滅的な状態とした事例が報告されています。富栄養化した水域では、ソウギョによる水草除去がある程度終わった段階から植物プランクトンが大量に発生し、水草が繁茂していたときの環境よりもよりさらに悪化して問題となりました。

(4)感染症と人間の健康への被害
従来その地域にはいなかった病原菌や寄生虫が、外来種と一緒に入ってきた場合、人間や在来種に被害を与える場合があります。

●狂犬病や犬ジステンパー:1950年ごろのニホンオオカミの絶滅の原因のひとつが、輸入犬からの伝染病である狂犬病や犬ジステンパーによる個体数の減少だと言われています。また、タヌキやキタキツネにも同じように伝染病の被害が出ているそうです。

●ノイヌの犬ジステンパー:アフリカのタンザニアのある国立公園の周辺には3万頭ものノイヌが生息すると言われています。これらのノイヌが持ち込んだ犬ジステンパーによって、地域に生息する25%のライオンが死亡したことが報告されています。

●ネコエイズ:ノネコに起因すると言われる猫後天性免疫不全症候群(ネコエイズ)が、ツシマヤマネコに感染した事例も見つかっており、イリオモテヤマネコも脅威にさらされていると言われています。

●アリの被害:世界各地に定着しているアルゼンチンアリ(南アメリカ原産)は、屋内に侵入したり、就寝中の人間を咬むなどして、不快害虫となっている。さらに、北アメリカでは大勢の人が、アルカロイド系の毒をもつアカヒアリ(南アメリカ原産)に咬まれ、死亡する事態も生じていると言う。

●花粉症の被害:ブタクサやオオブタクサなどのキク科植物、またカモガヤやオオアワガエリなどのイネ科植物は、外来植物の雑草として市街地などの人間の生活に近い場所に生育している。これらの外来植物の花粉は、花粉症を発症させて人の健康に悪影響を及ぼしていることはよく知られています。

●エキノコックス寄生虫:人間がエキノコックス寄生虫に感染すると重い肝炎を引き起こすことが知られています。北海道の礼文島では害獣を駆除するためキツネを輸入したのですが、このキツネの中にエキノコックス寄生虫に感染したものがいたと言うことです。礼文島におけるキツネは、完全に駆逐されたのですが、エキノコックスは海を越えて北海道本土のキタキツネに感染して広がり、ついに人間へも感染してしまいました。ところが2005年にエキノコックスの卵が、さらに埼玉県で確認されたためホンドキツネへのエキノコックスの感染拡大が心配されていると言うことです。

(5)遺伝子の汚染
外来種が在来種と交雑することによって、在来種の遺伝子が変ることがありますが、これが遺伝子の汚染現象です。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでその個体群が共有していた一定の変異幅をもつ遺伝子の総体が汚染を受けて、元の状態を回復することが事実上不可能となると言われています。固有種に外来の遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種が消滅することになるため、問題は特に深刻であると言われています。

また、農作物や家畜の品種改良の場合は、人間にとって都合のいい優れた特性が、交配によって達成され、原種と大きく異なった形態・形質の品種が生み出されます。こうした現象は人為的に制御された条件下で行われるのに対して、自然環境下の動植物で遺伝子の汚染が広がった場合は、汚染前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及したり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れも生じます。


おわりに
豊かな生態系を保全するための重要なキーワードである「生物多様性」おける「外来種」の関わり合いについて学習しました。外来種の定義、外来種の影響と被害、さらに環境保全における問題点、生態系への被害、遺伝子の汚染、農林水産業への被害、感染症など人への危険などいついて学習しました。その結果、外来種としての定義や区分や線引きは、特に古い時代の生きものについては、極めて難しいことを学びました。また特に外来種の影響による被害の事例については、近年において生じた事例が多く、これらの問題が社会経済の発展と生産活動の高度化および経済活動のグローバル化などが大きな要因となっているとが考えられます。
今後とも社会経済の進展に伴って外来種問題は、ますます頻度も多くなり多様化するものと予想されますが、問題解決への基本的なスタンスとしては、環境保全、特に生物多様性を踏まえた生態系の保全を枠組みとすることだと思います。


<参考文献>
1.Wikipedia(フリー百科事典):外来種、2015.2.27 更新版
2.独立行政法人・国立環境研究所:侵入生物データベース、http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/
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by wister-tk | 2014-08-25 15:49 | 環境学習など
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