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オランダの環境対応に学ぶ

前回は「海外のHPを見てみよう(6)」としてオランダ環境省のホームページを紹介しました。今回は、前回と関連して世界的にも古くから環境調和に取り組んできたオランダの対応の一端を紹介いたします。

ここでは人の生活環境と自然環境との関わり合いが最も重要となる、社会資本整備に関わる施設構造物(橋、高架橋、道路、地下鉄、鉄道、トンネル、ダム、港湾施設、堤防、防波堤、防潮堤、灌漑排水路、等々)の建設の観点から、問題を概観してみようと思います。

1.自然工学の考え方
施設構造物を造るときは、野生動植物など生態系に対して十分に配慮しなければなりません。この場合に、生態系への配慮の基本となる考え方として、オランダで行われてきた「Nature Engineering」1)(ここでは仮に“自然工学”と訳します)と呼ばれる考え方が参考になります。自然工学は、「固有の植物相や動物相とそれらの相互関係である生態的共同体のために生存条件を創出し、それを向上させ、あるいは保全するための全ての行為をいう(Proost & van der Hoek、 1985)」と説明されています。

       自然工学の考え方と目的
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自然工学の具体的な目的は大きく2つあり、
(1)生き物の「生息域の創出」あるいは「再創出」と
(2)「自然の管理」、すなわち自然をマネジメントする立場から望ましい状態に保全していくことです。
さらに、前者の(1)「生息域の創出あるいは再創出」は、2つの目的を持っており、
①そのひとつは生き物がより自然な生態的共同体をつくり、また自然な生活ができるように、岩石、土、水などの生物以外の材料を用いて生き物の生息域の出発点となりうるような適切な空間を工学的に創出することであり、
②もうひとつは既にそこにいる生き物の生息域の創出あるいは改善のために、それを可能とする生態的な条件整備と生き物の発展向上を図ることです。

施設構造物を造ることによって、われわれは、生息域を分断したり、移動路を遮断したり、さらに構造物の周囲にある生き物の生態機能に、また共同体やエコシステムに影響を与えることになります。ですから施設構造物を建設するとき、自然工学的手法としては、自然への配慮として、
①建設時においては土工工事などによって、まず生き物が生活を開始できるような場所を創出すること、
②生き物の生息域を創出するためにの手段を用いて実際の生息域の整備を行うこと、
③生態系への影響が大きいなど、場合によっては初期の開発計画を縮小あるいは中止するなど、開発の制限を基本とした自然を維持管理するための体制を採用すること、
などが特に重要です。

2.環境保全・保護・回復の考え方2)
人が自然に手を加える場合においては、様々な改変の度合いがあり、それに対応して種々の概念が用いられています。これらの概念は、人と自然環境との関わり合いを配慮するうえで大変重要となります。

改変の程度の大きい方から小さい方へ順に、
①創出(creation):何もない所に全く新しく生物のための生態的環境を造り出す、
②機能回復(rehabilitation):過去に失った自然の機能をもとに戻す、
③代替(substitution):元の場所とは違う所に同じ機能をもつ環境を造り出す、
④再生(regeneration):近い過去に消失した環境を再び人工的に造り出す、
⑤移入(introduction):近い過去に消失した環境を類似の環境から移してくる、
⑥回復(restoration):近い過去に消失した環境をその環境の持っている潜在的な力によって復元する、
⑦移設(replacement):現状を維持すために対象とする動植物を移す、
⑧保存(keeping reservation):周囲への人為的影響を許容するが、しかし対象物への影響は排除して生態系の現状を維持する、
⑨保護(protection):基本的に周囲を含めて人為的影響を排除し現状の生態系を管理維持する、
⑩厳密保護(restrict protection):人為的影響を完全に排除し管理も行わない、などがあります。

さらに
○保全(conservation)は、①~⑦までの人為的行為を表し、
○ミチゲーション(mitigation)は、影響軽減を意味し③~⑦までの行為のことを言います。
また、
○保存(reservation、 preservation)は、⑦~⑨の行為のことです。

施設構造物の建設を計画する場合、これらの環境条件のどれを採用するかは、極めて重要な判断であり、環境影響評価がその価値を発揮することとなります。

人間の生活環境との関連で見た自然環境への対応としては、前に述べた「環境倫理」(2012/1/12)の考え方と合わせてみると、非常に難しい問題であることが理解できます。こうしたことに関連して最近、問題となっている課題として、脱原発へ向けた代替エネルギーの開発の一環としての地熱発電があります。主な地熱発電の候補地が国立公園内にあることで「自然保護かエネルギー開発か」の論議がなされています。

脱原発を本当に推進するのか?その場合に地熱発電は本当に必要なのか?地熱発電を実施するとしたら自然保護をどの程度行えばいいのか? など極めて難しい判断が求められますが、皆さんはどのように考えますか?

<参考文献>
1) Aanen, P. et al.:Nature Engineering and Civil Engineering Works,
Pudoc, Wageningen, 1991
2) 竹林征三:建設環境技術、山海堂, p.32, 図-1.9, 1995
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by wister-tk | 2012-03-04 15:39 | 海外の情報