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「温暖化ガス25%削減」に係わる最近の動向は?

このブログの「ウィステリアの部屋」に2009年12月2日に投稿した「温暖化ガス25%削減の意味するもの」において、当時の鳩山首相が、国連気候変動首脳会合(2009/9/22)において2020年までに25%削減(1990年比)するとの国際公約を表明し、大きな支持を得たことを述べました。この表明に対して経済的影響として、(1)1世帯当たり年間36万円の負担増になると言う試算結果を示した反対の意見があり、一方で(2)25%削減でも経済成長を確保できるし、家庭の可処分所得や光熱費への影響を小さくできると言う検討結果も発表されました。

私の考えとしては、上述の二つの意見のどちらが正しいかは判りませんが、「地球温暖化」が事実であり人類にとって避けられない現実であるならば、出来るだけ早期に有効な対策を立て実行するのが、われわれ世代の次世代以降の人類に対する責務であるとの意見を述べました。また、経済的にマイナスにならないよう最大限の努力をしなければなりませんが、たとえ結果的にマイナスになったとしても次世代への負担を少しでも減らすことが出来れば、われわれの義務の一部を果たしたことになるとも述べました。


ところが大変不幸なことに2010年3月11日、東日本大震災と福島第一原発事故が発生しました。これまでのいわゆる「25%削減」の議論は、すべて原発の稼働を前提としていたため事態は全く異なったものとなってしまいました。以下に温暖化ガス25%削減に係わる最近の動向についてその概略を見てみたいと思います。

(1)中央環境審議会(環境省)が2020年の削減シナリオの試算を公表
表―2020年の温室効果ガス削減率
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2030年時点における総発電量に占める原子力発電の比率を①0%、②15%、③20%、④25%、⑤35%(参考値)とし、再生可能エネルギーの利用と省エネ施策などの徹底度合いを高程度・中程度・低程度(現在実施している程度)の3段階とし、さらに経済成長を成長シナリオと慎重シナリオの2つのケースを想定し、30のケースについて算出しています。
原発の比率を最大の35%としても2020年の削減割合は、1990年比で最大19%であり、これに海外からの排出枠購入分の1.6%と森林吸収分の3.8%を加えても「2020年までに1990年比で25%削減する」との国際公約の達成は艱難と思われます。
なお原発の比率15%の場合は、「原発を原則40年で廃炉にする方針に基づいた想定」ですが、この場合ですと削減率は、1%~15%となります。

(2)「25%削減の目標を撤回すべき」との意見
上述の「中央環境審議会の削減シナリオ」に基づいて、また、稼働がゼロとなった原発の実情(関西電力・大飯原発の再開が決定されましたが)から判断して、2020年までの25%削減は無理であり、直ちにに撤回して実現可能な目標を設定すべきであるとの考えです。
わが国が「25%削減の国際公約」を提示した背景には、その前提条件として米中はじめ主要排出国を含めた公平な枠組みの構築がありました。しかし、昨年12月のダーバン会議(COP17)でも見られたように、現在、決着は得られていません。こうした状況の中では、わが国のみが不公平な削減義務を負ってしまい、わが国の活力を失う結果となるので、実現可能な削減目標の設定が急務であるとの主張です。

(3)ドイツ・ボンで開催された温室効果ガス削減に関する国連会議の結果ダーバン会議(COP17)において決定された「ダーバン合意」では、すべての国が参加して新しい国際的枠組みを作ることが明記されました。今回のボン会議はこの「合意」に基づく「特別作業部会」の初会合でした。しかし、注目された会議では予定した作業計画は決定されず、議長の選出もできないままに最終日を迎え9日間の日程を終わりました。このような混乱と失敗の原因は何だったのでしょうか?
その前に「ダーバン合意」について復習しておきましょう。(詳しくはこのブログの2011年12月14日、「COP17の結果と今後の課題につて」をご覧ください)
2010年12月に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17でのいわゆる「ダーバン合意」は、
①2012年までの京都議定書の延長、
②すべての国が参加する新たな国際的な法的枠組みを2015年までに作成し2020年までに発効させる、
③各国は2010年までの目標に上積みする
と言うのが主要な内容となっています。

ボン会議の混乱と失敗は、第一に中国の言動と言われています。温室効果ガスの排出第1位の中国が、上記のダーバン合意の②に違反して、「先進国がより重い責任を負うべき」との緊急動議を連発して、ダーバン合意を覆すような主張を行い会議の進行を停止する行動に出たとのことです。
ボン会議の混乱と失敗の第二の原因は、温室効果ガスの排出第3位のインドが、作業部会の議長に急遽立候補して紛糾しこれが最終日まで続き、結果として最終日になっても実質的な討議がまったく行われないと言う異例な事態となったことが報道されています。

今回のボン会議の結果明らかになったことは、
①経済発展を続ける中国・インドなどが経済成長の維持を目的に予想外の自己主張を行ったこと、
②特に中国は「途上国」であるとを主張し、先進国が温室効果ガスの削減策を一層強化すべきと主張したこと、
③島嶼国や後進国は、中国・インドなどの態度に対して非難の声があがり途上国側に亀裂が入ったこと、
④わが国については、「2020年までに1990年比で25%削減」の目標を見直し、この夏までに「自主的削減目標」を提出することとしたこと、
以上のように新興国と先進国の対立は、「ダーバン合意」以前に逆戻りしたような観があり、今後の成り行きは全く不透明と言わざるをえません。

(4)「リオ+20」の動きについて
1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催されたいわゆる「地球サミット」は、その後の地球環境問題解決への行動の具体化の端緒となった重要な会議でした。あれから20年経た今年2012年に、今後10年間の環境保護策を協議するために、あらためてリオデジャネイロで開催されたのが「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)なのです。
6月22日に会議の成果文書を採択して終了しました。合意内容の基本は、2015年までに「環境を破壊することなく経済発展をするための{持続可能な開発目標(SDGs)}を作成すること」です。また、持続可能な開発を達成させるために環境保全と経済成長を両立させるための重要な手段として「グリーン経済」を目指すこととしました。
*「グリーン経済」:環境保全や持続可能な循環型社会などを基盤とする経済のことで、自然環境の保全や天然資源の循環利用によって、将来にわたって持続可能な経済成長を実現しようとするものです。

「リオ+20」の成果文書は、「我々の望む未来」と表題がつけられていますが、ここでも日米などの先進国と中国などの新興国・途上国の対立が激しく、リオでの本会議に先立って行われたニューヨークでの事前会議でも、環境と経済を両立させる「グリーン経済」を実現させるための条件に対して、また貧困削減のための新しい指標とされる「持続可能な開発目標(SDGs)」の適用方法に対して両陣営の対立状態は解けないままでした。
当初はこれらに関して「国際的な共通工程表」の作成に合意することを目標にしたのですが、結局、各国の自主的な取り組みにまかせることとなりました。これも新興国・途上国が経済発展を優先し、不要な足かせを排除しようとしたためです。

「リオ+20」の成果の概要は以下のような内容となっています。
【対立点】:
①「持続可能な開発目標」:先進国は各国に一律に適用することを主張、途上国は国により「差異」をつけることを要求
②「グリーン経済」:先進国は民間主導での導入を主張、途上国は導入の代償として先進国からの援助を要求
【合意点】:
①持続可能な開発を主導する首脳級会合の定期開催および国連環境計画(UNEP)について合意
②国内総生産(GDP)とは異なる「幸福度」や「自然の豊かさ」を考慮した新たな経済指標を作ることで合意
③地球温暖化に直接関係する事項としては、CO2の数百倍から4千倍の温室効果があるとされるハイドロフルオロカーボン(HFC:フロンガスの代替品)の削減が、「成果文書」に採用されました。


以上、「温暖化ガス25%削減」に係わる最近の動向について概略をみてきましたが、1992年のリオの「地球サミット」以降、先進国と途上国の相対的な関係は大きく変化しました。特に近年は中国・インドに代表されるいわゆる新興国の影響は著しく、温室効果ガスの排出量については中国が米国を抜いて世界第1位の排出国となりインドは第3位となりました。こうした情勢の大きな変化にも関わらず、依然として中国のように「大きな途上国」を主張して地球・人類の将来に対するヴィジョンを持たない態度は、まさに「環境倫理」に悖る行為と言わざるを得ません。皆さんはどう思いますか?
環境を守る責任は、新興国や途上国にもあることを先進国から積極的に働きかけていくことが、重要になっていくことでしょう。特にわが国の場合は、経済開発援助(ODA)などによる経済支援のほか、省エネや環境対応技術などの面での積極的な支援の取り組みが期待されています。

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★http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2011031700006.html より引用
事故前の福島第一原発。1号機(左)から4号機=朝日新聞社ヘリから


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★http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011040801000433.html より引用
事故後の福島第一原発。中央左手前から4号機、3号機、建屋が残る2号機、1号機=2010年3月24日(エア・フォート・サービス提供)

さて一方、わが国は先のボン会議で「温暖化ガス25%削減」の国際公約の見直しを表明しましたが、福島第1原発事故に鑑み止むをえない対応とは思います。しかし、今後原発の比率を何%にするのかが大きな課題となります。前述の中央環境審議会が公表した「2020年の削減シナリオの試算」にも示されように、原発比率の35%は論外としても、0%から25%程度までの選択肢があります。
現時点では原発の安全性が確約されない限り、再稼働への国民の合意は得られない状況にありますが、現実問題として原発比率0%でわが国に必要なエネルギーを確保して所要の経済力を保持し、国民生活の維持がどこまで可能かといった問題の厳密な分析が必要と思います。自然エネルギーや再生可能エネルギーの占める割合を、短期間に増大させることは無理であれば、長期的視点にたってそれらのエネルギーを積極的に開発し、一方で原発の安全性を徹底的に確保して当座のエネルギーを確保するより他に手立てはないのではないかと考えますが、如何でしょうか?


<参考>
25%削減の根拠は、上昇温度を2℃に抑えると言うシナリオ(下表の区分Ⅰ)に基づいていますが、-25%はかなり内輪の値であることがわかります。このケースをめざしたとしても実現は難しく、結果的に3℃上昇のシナリオ「区分Ⅲ」のケースに抑えるのがやっとではないかと考えられています。その場合の海面上昇は、海水の膨張のみで2メートルにも達すると予測されています。

温室効果ガスの安定化シナリオ(IPCC第4次報告書2007による)

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by wister-tk | 2012-06-25 21:43 | 環境学習など