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トリウム熔融塩炉についてのQ & A

まえがき
 このブログ「ウィステリアの部屋」において「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?」と題して、5回にわたって「トリウム熔融塩炉」について学習しました。最終回の5回目では、「トリウム熔融塩炉」が、言われているように本当に優れた原子炉であるならば、何故これほどまでに無視・拒絶されるのだろうか?と言う疑問に対する検討でした。その疑問のひとつが、「トリウム熔融塩炉」は、本当に優れた原子炉なのだろうか? 本当にそれ自体に問題はないのだろうか? と言う疑問でした。
 そこで次に示す3つの質問を、NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム・ITMSF*」へ提出しました。

 本来は「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」の投稿に間に合わせるために、2013年6月23日にメールを発信したのですが、その時の自分宛てのBccが8月17日に着信し、ITMSFからの回答を8月21日にいただきました。ところがITMSFからのメールでは、これまでに2回も回答を送信したが、私の方へ着信していないようなので確認の返信を欲しいとのことでした。

 と言うことでITMSFからの回答を、「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」に活かすことができませんでした。そこで今回、改めて「トリウム熔融塩炉についてのQ & A」として投稿することとしました。しかし、ここではITMSFからの回答をそのまま掲載するのではなく、既に「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」において、自分なりの回答として述べたことと合わせて、改めて学習することにしました。

*NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム・ITMSF」:2008年10月9日設立。 日本および世界に対してトリウム利用に関する事業を行い、21世紀の基幹エネルギーの確保および低炭素社会への方向付けにより、地球温暖化抑制に寄与することを目的としています。クリーンで安全かつ経済的なエネルギーの確保とプルトニウムをはじめ核廃棄物消滅の有効な手段としてのトリウム熔融塩炉の推進のため、わが国はもとより国際的にも極めて活発に運動を展開している団体です。初代理事長:古川和男氏(1927.2.13.~2011.12.14.)、現理事長(2011.12.14~):吉岡律夫氏, http://msr21.fc2web.com/

米国オークリッジ国立研究所 ORNL
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出典:オークリッジ商工会議所ホームページ

Q1.材料の腐食の問題について
 トリウム熔融塩炉の構造材料の腐食に対してハステロイ-Nで対応できるとのことですが、その強度の限界温度が、熔融塩炉の通常の運転温度に対して余裕がないのではないかとも言われています。
★トリウム熔融塩に対しては、ハステロイ-Nで耐食性は安全を十分に確保できるでしょうか?最近では、さらに改良された材料が開発されているのでしょうか?

A1.上記の問題点に対する意見「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」より
 米国オークリッジ国立研究所ORNLにおける熔融塩実験炉MSREの容器や配管の材料である、ニオブ1%添加のハステロイ-Nの704℃での熔融塩に対する実験の結果、耐腐食性に問題のないこと、および熔融塩実験炉MSREでの650℃運転におけるハステロイ材料およびグラファイトへの耐腐食性が十分あることが報告されています[1]。
 また、ハステロイ-NについてHAYNESの技術情報[2]によりますと、ハステロイ-NがORNLで発明されたこと、704℃から871℃における熔融塩での耐腐食性試験において、その腐食率が1年間で1/1,000インチ(0.0245mm)以下であること、融点は1,300℃から1,400℃であること、などが記載されています。

ハステロイ-Nの耐腐食性試験結果[1]
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690℃の熔融塩に浸漬した場合の単位面積当たりの質量変化ΔM(mg/cm2)と浸漬時間(√hr)の関係(ΔM ∝ C0・√t )

 なお、わが国においてもハステロイ系合金で、1,200℃に達する高温中でも優れた強度と耐酸化性を持つ材料が開発されています(MA-X:三菱マテリアル)。
 熔融塩炉(FUJI-Ⅱ)では、炉本体から中間熱交換器に送られる燃料塩の温度が700℃となっています。この温度は全体のシステムの中で最も高い温度です。ORNLの熔融塩実験炉MSREの運転で行われたように、制御装置によって温度は安定に保たれるので、強度限界が930℃でも問題はないと言われています[3]。
 しかし、ハステロイ-Nの構造材料としての機能が発揮できる限界温度の最高値がどれ位か、また熔融塩炉の温度制御が失われた場合の余裕の温度幅はどれ位が妥当か、などの条件によりこの問題への解答は異なるのではないかと思われます。

 材料強度の温度限界に関してITMSFによると、ハステロイ-Nの引張強さについては、約1,000℃が強度限界と推定されているとのことです。したがって、どの程度の強度的な余裕があるかは、事故時の温度上昇の程度に依存することとなります。また、解析結果等から熔融塩炉が十分に安全性のあることを示す文献として、下記のサイトを挙げています。
 http://msr21.fc2web.com/safety.htm

 また、材料の腐食の問題についてITMSFは、ハステロイ-Nが既に米国実験炉で4年間、実際に使用され、耐食性などの点も確認されたことを示しておりますが、このことは前出の「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」においてもより詳しく述べています。さらにITMSFによりますと、構造材料としてのハステロイ-Nが、40年間の使用に耐えるはずとの分析も示されているとのことです。
 さらに実験炉の設計や実験結果などに関する報告書が全て公開されていて、その量はダンボール箱で10個以上もあるとのことです。下記のサイトに文献が示されています。
 http://www.energyfromthorium.com/pdf/

Q2.強いガンマ線の問題について
●テロリストにより狙われやすい:自爆テロを行うようなテロリストは、放射線を恐れることはなく、またガンマ線の強い放射線によって少量散布した場合でも社会へ大きなダメージを及ぼすことができるので、プルトニウムよりむしろテロリストにより狙われやすいとも言われています。
●メンテナンス性の悪化:強いガンマ線によって通常の運転時における熔融塩炉のメンテナンスが、困難になるという大きな欠点があり、少量でも溶融塩が炉心や配管中に残っている場合は、強い放射線を出すため点検が困難になると言われています。
●軽い事故でも即廃炉:トリウム溶融塩炉の燃料漏れ事故の場合、漏れた燃料は炉心や配管の下に設置した受け皿に落ち、そこで冷えて固体になり強い放射線を放出し続けるため、処理や補修のために人間やロボットが作業ができなので、原子炉は停止状態となりそまま廃炉にせざるを得ないと言われています。
★上述のように強いガンマ線に対しては相当に問題が大きいように思われますが、対処方法はどのようになるのでしょうか?

A2.
◆テロリストにより狙われやすいことについて

 上記の問題点に対する意見「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」より
数時間で死に至るガンマ線を放出するウラン233を、テロリストが盗み出して利用しようとするかどうか容易に判断できません。しかし、少なくとも危険物質の流出が、監視・検知しやすいと言うことは明確だと思います。プルトニウムが放射するアルファ線は、紙1枚で遮蔽できるため運搬は容易であり、しかも検出され難いと言った点から見ると、やはり強力なガンマ線を放射するウラン233の方が、プルトニウムより管理しやすいと言えるのではないでしょうか。

各種放射線の透過力の比較
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出典:資源エネルギー庁・「なるほど!原子力 A to Z」

 この問題に対してITMSFによりますと、軽水炉でも熔融塩炉でも、元来は核分裂によって大量の放射性物質が生成されます。したがって、テロリストが、使用済み核燃料を狙うとしても、福島第一原発の事故処理においても人間が近づけないのと同様に、強いガンマ線には人間が近づくことは不可能とのことです。
 また、古川和男氏の著書「原発安全革命」[4]には、「熔融塩炉では、仮に盗取してウランを分離できたとしても強い放射能が残る」と言う記述がありますが、これに「軽水炉では、仮に盗取したら(放射能の危険性のない)ウランやプルトニウムを分離できてしまう」という対比した記述がないため、誤解されそうだとも述べています。
 このことを軽水炉と溶融塩炉との対比で示すと次のようになるとのことです。すなわち、
*軽 水 炉:使用済燃料の盗取は困難、しかしPuを分離すると容易に原爆製造が可能、検知は困難
*熔融塩炉:盗取は困難、Puが殆ど生成しない、Uを分離しても放射能があるので原爆製造は困難、検知が容易。

◆メンテナンス性の悪化について
 上記の問題点に対する意見「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」より
「液体燃料」である熔融塩核燃料では、遠隔操作で濃度調節、輸送などが行えるので、遮蔽には全く困難がないとのことです[4]。また熔融塩炉では、「液体一相で核反応・熱輸送・化学処理媒体の全機能を発揮」するため、超高度で複雑な諸機能を一液相で行えるので「原子炉構造が単純化」され「理想原発」となっています。このように炉構造が単純なため、運転・保守管理・修理等が極めて容易となります[5]。

 提案されているトリウム熔融塩炉FUJI-Ⅱ[4]では、余熱用のヒータ、保温材、熱電対温度計などは不要となります。こうして装置の表面が、余分な機器が付属しない「裸」の状態なので、高温・高放射性であっても遠隔操作・ロボットによる保守点検や修理に不便がなくなります。実際に米国オークリッジ国立研究所では、ウラン233を用いた熔融塩炉の実験MSREを行い、長時間の運転でも保守管理・修理等のメンテナンス面において特段の不都合はなく成功していること[1]からも文献[4]の説明が理解できます。

 メンテナンス性の悪化についての今回いただいたITMSFの見解としては、軽水炉でも熔融塩炉でも同じように核分裂によって大量の放射性物質が生成されるため、放射能の観点からは保守性は、両者とも同じであるとのことです。
 また、「燃料漏れ事故が軽水炉の冷却水漏れ以上に発生しやすい」と言うことについては、「これは間違いである」と指摘され、軽水炉では内部が70-150気圧のため高圧による漏洩の危険性が常にあること、これに対して熔融塩炉では、基本的に常圧であり高圧による破壊の危険性がないとのことです。
 さらに、「漏れた燃料がその場で冷えて固体になる」と言うことについては、「これも間違いである」との指摘があり、熔融塩炉における一次系は、500度の格納容器の中に存在するので、漏えいした燃料は固化しないとの説明です。

Q3.実験炉・原型炉の立ち上げについて
 「この熔融塩炉の行き詰まりを打開するには、その一つとして、やってみなければ分からないと言う技術的問題がないかどうか、確かめる必要がある。先ず、その為の実験炉・原型炉を立ち上げることだ[6]。」と言う意見があります。
★現在、わが国および海外において稼働でしているトリウム熔融塩炉の実験炉等はあるのでしょうか?またFUJIの稼働は、どのような計画となっているのでしょうか?

A3.
 現在、国内外において稼働しているトリウム熔融塩炉の実験炉に関するITMSFの回答によりますと、
「実際に運転されたのは、1960年代の2基の米国実験炉だけです。」とのことです。また中国やインドその他の諸外国においても研究が進められていて、特に中国では、実験炉の建設計画進めらているとの説明がありました。諸外国における現状については、「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」において、既に学習しています。

 一方、わが国の今後のトリウム熔融塩炉の推進に関して、ITMSFは、「日本は、当面はともかく、いずれエネルギー需要は縮小します。しかし、核廃棄物の処理は、原発を推進するにせよ、廃絶するにせよ、我々の世代で道筋をつけなければなりません。」との見解を示しています。
また、「トリウム熔融塩炉の開発の現状」については、2013年5月9日に開催された原子力委員会でのITMSFとして公式に説明を行ったとのことです[7]。
 なお、「トリウム熔融塩炉の開発の現状」については、既に「安全な原発:トリウム熔融塩炉ってなあーに?(5)」において、「2.各国における熔融塩炉あるいはトリウム利用の研究開発の推進状況」と言うテーマで、やや詳しく学習しました。

おわりに
 材料の腐食の問題、強いガンマー線の問題、実験炉・原型炉の立ち上げの3つの疑問について、改めてまとめて学習しました。これによって、熔融塩炉本体の構造的、工学的疑問点については、一応理解が進んだものと思われます。
 しかし、以前から持ち続けている大きな疑問、『熔融塩炉が「注目されない」と言うよりはむしろ「無視あるいは拒絶されてきた」と言う事実』は何故なのかは、いまだに晴れないままです。わが国においてトリウム熔融塩炉が稼働するかどうかは、まさにこの問題の解決にかかってるのかも知れません。

 一方、中国などを筆頭に米国も他の国々もトリウム熔融塩炉に関心を持って取り組んでいます。特に中国は相当な力の入れようですし、また唯一、熔融塩炉を稼働させた実績を持つ米国も、最近は研究開発の予算を計上するなど、動きが活発となっています。
 諸外国に遅れをとることなく、トリウム熔融塩炉の実現に向けて、今後の我が国の積極的な対応が期待されるところです。


<参考文献>
[1] OAK RIDGE NATIONAL LABORATORY :Molten-Salt Reactor Program
Semiannual Progress Report, August, 1976
http://www.energyfromthorium.com/pdf/ORNL-5132.pdf
[2] HAYNES International : Technical Information 2002,
http://www.haynesintl.com/pdf/h2052.pdf
[3] イケメン評論家の大学生新聞:「トリウム熔融塩炉に対する批判」に対する批判
http://ikeron.blog.fc2.com/blog-date-201301-1.html
[4] 古川和男:原発安全革命、文春新書、2011
[5] 古川和男:エネルギー技術革新を求めて50年 ―核拡散のない液体燃料トリウム熔融塩炉―東海大学紀要工学部、Vol.49, N0.2, 2009, pp.1-10
http://www.miraikoso.org/before/32miraikoso/youyuuenro
/Yuuenro_toukaidai.pdf
[6]鈴木 篁:原子力の核燃料サイクル問題を問う(長期講座), 2.第四世代原子力候補のトリウム熔融塩炉が何故取り残されているのか(2005.03.23)
http://homepage2.nifty.com/w-hydroplus/info00b2.htm]
[7] 吉岡律夫・木下幹康:トリウム熔融塩炉の開発の現状について、
第17回原子力委員会資料 第2-2号,2013.5.9.
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2013/siryo17
/siryo2-2.pdf
以上
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by wister-tk | 2013-08-29 21:31 | 環境学習など